腰痛の治療
ぎっくり腰
特に、急性腰痛である「ぎっくり腰」で来院される方は多くいらっしゃいます。私の経験からお話させていただくと、ぎっくり腰が起こるのは腰椎の問題ではないことが多いです。原因の大多数を占めているのが常日頃から疲労が蓄積された腰の筋肉が思いがけず捻ったり伸ばされたりするなど、筋肉が引きつることですが、鍼でその部分の筋肉を刺激してあげることで、筋肉の引きつりが解すことができます。これがギックリ腰の早期改善に繋がるのです。
少し無理やりではありますが、これらの筋肉が原因となっているぎっくり腰(急性腰痛)について3つのパターンに分けて解説していきたいと思います。
大腰筋が原因の場合
大腰筋(腸腰筋)が痙攣してしまっている方は腰を伸ばせず中腰のような格好で鍼灸院に来院されることが多くなっています。深いところに位置する大腰筋は指圧では届かないため、指で筋肉を指圧してもあまり痛みを感じることはありません。腰の奥深いところで痛みを感じるという方が多く、このような患者様には直接大腰筋に鍼を届け、筋肉の緊張を和らげてあげます。
横突棘筋が原因の場合
背骨の上、深いところにあるのが多裂筋、半棘筋、回旋筋の総称である横突棘筋です。ここが原因となっている場合、背骨の筋肉を押すと痛みを感じます。この横突棘筋が引きつってしまうと、身体を反らしたり、前かがみになる時に痛みを感じるため腰が固まって動かせなくなってしまうのです。仙骨周辺(お尻の真ん中)や腰より少し上の下部胸椎周辺に痛みがあるケースも横突棘筋が原因になっていることが考えられます。下部の筋押して痛む部分を中心にして、その上下の横突棘筋に直接鍼をしていきます。(華佗夾脊穴というつぼに近い部分)横突棘筋へは背骨に到達する深さまで鍼をしていきますので、自然と椎間関節部を刺激することにもなります。これによって椎間関節部の捻挫のせいで引き起こされていた急性腰痛にも同じ方法で対処することが可能となるのです。
また、横突棘筋に問題が起こると同じ脊髄神経後枝の脊柱起立筋にも緊張が広がってしまうようで、これによって余計に腰が固まってしまうことにもなります。これはあくまで予想ですが、このように固まってしまうのは痛んでいる部分を保護するため、背筋が総動員で固めているのかもしれません。脊柱起立筋にまで緊張が広がってしまうと腰を前にも後ろにも曲げることが出来なくなってしまうため棒立ちのような状態で来院される方が多いです。
脊柱起立筋もカチコチに固まってしまっている方の場合は腰痛のつぼとして一般的にも知られている有名な「大腸兪」「腎兪」「志室」なども刺激し、脊柱起立筋の上の下後鋸筋を緩める処置も行います。表層の筋肉である脊柱起立筋はソフトな施術(知熱灸など)でも緊張を緩めることが出来ます。
腰方形筋が原因の場合
肋骨の一番下から骨盤の上縁を結んでいる筋肉で、表面積が大きく姿勢保持に大きく影響している筋肉の1つです。背骨を横に曲げる役割をするこの筋肉が引きつってってしまうと左右のバランスが崩れてしまい、どちらかに身体が傾いたりして姿勢の歪みを引き起こしてしまいます。腰方形筋は腸骨陵(骨盤の上縁)に付いているのでその付近を押すと痛んだり、脊柱起立筋の盛り上がりから下り平坦になった部分から押したりしても痛むことがあります。更に、身体を曲げたり捻ったりすると痛んだり、寝返りを打つ時にも痛みが走ることがあります。
腰方形筋が原因の場合にも鍼が腰方形筋に達するように鍼をしていきます。
急性腰痛まとめ
上記ではざっくりと3つに分けてご説明させて頂きましたが、この3つの原因が同時に起こっているという場合も少なくありませんし、お尻の筋肉(大殿筋、中殿筋、小殿筋など)が原因となっていることもあります。はっきりと筋肉が原因となっているのがわかる場合には東洋医学的な方法のみならず、痛みや緊張の原因となっている筋肉に鍼をしっかりして、緊張を緩和してあげるということが症状の解消につながっていくのです。
急性腰痛には椎間板ヘルニアもあり、下半身の感覚が麻痺したり排尿・排便に異常をきたしているというときには手術しなければならない場合もあり、鍼灸院で対処することができなくなってしまいます。しかし、椎間板ヘルニアの場合でもヘルニアに起因した痛みではなく、痙攣した筋肉が神経を圧迫することにより引き起こされていることもあります。このような場合は鍼灸での治療が成果を上げることも多いです。
慢性腰痛
慢性腰痛も、急性腰痛の場合とほとんど同じ鍼灸治療を行います。
ですが、慢性腰痛の場合には腰に負担をかけてしまっている場所にも必ず働きかけてあげる必要があります。他の原因となっている臀部、大腿、下腿、腹部など、患者様の状態に応じて必要な筋肉にも治療を行っていきます。しかし、慢性腰痛の中には変形性脊椎症、脊柱管狭窄症…つまり加齢が原因となった骨の変形や骨粗しょう症が原因となった腰痛など、単に筋肉だけの問題ではないものも多くみられます。
変形性脊椎症・腰部脊柱管狭窄症に対する鍼灸
鍼灸も万能ではないので、残念ですが特殊な鍼や長鍼を使ったとしても狭窄部位へ直接働きかけることはできません。
ですが、病院で腰痛や下肢痛の原因が脊柱管狭窄症だと診断された場合でも大腰筋、腸骨筋、横突棘筋群、大殿筋、中殿筋、小殿筋、梨状筋、下肢の筋肉などへ鍼治療を行うことで辛い痛みや症状から解放されていく患者様もいらっしゃいます。椎間板ヘルニアや変形性脊椎症による腰痛も同様です。このような患者様は狭窄ではなく筋肉が硬化していたことが原因だったのだと思われます。ぜひ一度、諦めてしまう前に当院の鍼治療をお試しになられてみてください。5回ほどで効果がわかるかと思います。
いくら治療しても辛い痛みや症状が完全に解消されない方も残念ながらいらっしゃいますが、それでも施術を行ってから数日~1週間は痛みが緩和されるということもあります。鍼灸治療の効果が永続的に続くわけではないということをご説明させていただき、ご理解・ご納得していただいた上で定期的に鍼治療に通われる患者様もいらっしゃいます。ですので、主治医のご意見や調べて頂いた情報を元にして患者様ご自身で鍼灸治療を継続していくかどうかをご判断いただければと思います。
ストレスが原因の場合も
慢性腰痛の鍼灸治療にも直接筋肉に働きかけることが大切ですが、実は厄介なことに心理的なことが引き金となって慢性腰痛が引き起こされる場合もあります。
大学病院の中には精神科と整形外科が連携して治療を行っているところがあることからも、その関連性がわかります。東洋医学では病の背景には必ず感情、精神的な乱れがあると昔から考えられており「内傷」「七情の乱れ」と言われていました。例えばぎっくり腰の場合、東洋医学では身体に内傷があることから風・寒・湿などの外邪につけ込まれ、いきなり腰痛が引き起こされるのではないかと考えられています。
ストレスが原因となっている場合は時間がかかることもありますが、東洋医学的な手法も併用して慢性腰痛の治療を行っていきます。具体的にはどのようなことを行うのかというと、睡眠、食事、排便・排尿等についての問診と、顔色、肉付き、肌のつやや体型などの望診(目で見て診察する方法)から導き出された結果を基にして適切な経脈・経脈上にあるつぼを選択して浅い鍼をしていきます。そして、その後は腰部、腹部のつぼに鍼・温かいお灸をします。